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先生紹介
経済学部部長 室井 義雄 教授
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プロフィール:
1980年、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学博士(経済学)。講師、助教授を経て89年、教授。2005年9月より経済学部長。主な著書に『連合アフリカ会社の歴史:1879〜1979年―ナイジェリア社会経済史序説』『ビアフラ戦争―叢林に消えた共和国』『南北・南南問題』など。福島県出身。趣味は原始貨幣・仮面・古布など骨董品の収集。57歳。
「ビアフラ戦争」と「No Problem」の世界 ─私のナイジェリア研究─
非認識と誤解

しばしば、「なぜ、アフリカを研究されているのか」と質問されるが、この質問は間違っている。私の研究対象はアフリカではなく、ナイジェリアなのである。

現在のアフリカ大陸には、53カ国の独立国と5地域の非自治地域・信託統治領があり、その面積は、ヨーロッパ諸国・米国・中国・インド・アルゼンチン・ニュージーランドがすっぽり入る大きさである。

これほど広大でかつ多様なアフリカの全体を研究対象にすることは、ほぼ不可能に近い。そこで、アフリカを一個の集団・単位であるとしか認識しない上述の質問者にやや気分を害して、「そうだねぇ、夕暮れの空港に降り立った時のムッとする暑さと黒人特有の匂いが何とも懐かしいね」などと答えてきた。

なぜ、ナイジェリアなのか

しかし、私の深層心理の中には、一つのわだかまりがあった。私が高校生であったころ、世の中は騒然としていた。ヴェトナム戦争がジェノサイド化して、世界各国で広範な反戦運動が展開され、日本もその例外ではなかった。その陰に隠れるようにして、ナイジェリアでは、200万人とも言われる犠牲者を出した「ビアフラ戦争」が熾烈さを増していたのである。クワシオルコル症に罹患しあばら骨の透けて見える子どもの写真が報道され、「フランシーヌの場合」(新谷のり子)というフォークソングが街に流れていた。

ヴェトナム戦争もさることながら、「このナイジェリアという国は、一体、何なのか」という疑念が通奏低音のように響いていた。

「No Problem」の世界

私は、一浪して新潟大学に入学した。米・酒・魚が旨い土地であったが、学生時代は、『TheStrawberry Statement』(J.S.Kunen)の世界そのものであり、「自己否定」と「東大解体」の世界であった。就職する気はあまりなく、4年生になってから大学院への進学を目指して勉強を始めた。「解体」の対象であった東京大学を選んだのは、静かな「墓場」に入ることを決めたからである。

私の専門は経済学であるが、ナイジェリアを理解するためには、歴史・文化・政治など、すべてを学ばねばならない。ナイジェリアに直接関連するものだけでも1,800冊を悠に超える英語の文献・史料を収集しつつ研究を開始し、現在に至っている。

だが、当然のことではあるが、現実のナイジェリアは文献の世界とはだいぶ異なる。例えば、国家統計局の役人が「あ、これ間違っている」と、その場で報告書の数字を書き直す。「TOK」や「WhiteHorsie」など、一字違いのフェイク商品が並んでいる。密輸や詐欺行為を含めて、いずれも「NoProblem」(問題ない、大丈夫)である。

それとは対照的に、O.D.Nike女史のバティックや藍染め、A.K.Felaのジャズ演奏・アフロビートなどは、抜群に素晴らしい。やや気だるい、もの静かな北部のイスラム世界も私は好きである。こちらは、字義通り「No Problem」である。

「ビアフラ戦争」と今日の世界

育友会の援助により購入されている文庫
北部ナイジェリア、ハウサ人の少女
(本人による撮影)
光と闇、清と濁、聖と穢―、紛れもなく、ナイジェリアは人間世界そのものであった。ナイジェリア研究を通して、私はこの当たり前のことを学んできたように思う。

だが、「ビアフラ戦争」は決して「No Problem」ではなかった。ビアフラ共和国のナイジェリア連邦からの分離・独立を余儀なくさせた歴史的・現実的背景は理解できるとしても、人々はなぜ殺し合うのか。憎しみが、なぜお互いの殺戮にまで繋がるのか。たった今でも、恐らく世界の何処かで、さまざまな憎しみに駆られた殺人行為が試みられていると思うと、私の気持ちは重く沈んだままである。

「Imagine there's no countries, It isn’t hard to do…You may say I’m a dreamer, but
I’m not the only one」(J.Lennon「Imagine」)―、この歌詞が教えるように、30年以上続いてきた私のナイジェリア研究も、いま始まったばかりかも知れない。

ナイジェリア連邦共和国
面積 923,773平方キロメートル(日本の約2.5倍)
人口 1億4,000万人(2007年、ナイジェリア政府公表国勢調査暫定結果)(サブ・サハラ・アフリカ全体の約20%と推定)
首都 アブジャ(1991年12月ラゴスより遷都)
主要民族 ハウサ人、ヨルバ人、イボ人等(民族数は250以上と推定)
言語 英語(公用語)、各民族語
宗教 イスラム教−北部中心、キリスト教−南東部中心、伝統宗教−全域
(2007年7月現在 外務省資料より)