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110号 会報「育友」
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教員寄稿 シリーズ 私は、今の学生をこう捉えて、こう接する
資格は人生の良き伴侶
商学部教授 蔭山雅博
商学部教授 蔭山雅博
比較教育学・近代教育史(アジアの教育近代化過程に関する比較研究)を専攻。担当科目は教育原論・地理歴史科教育論・教育実習I II III・教養ゼミナール。主要共著書は『日中教育文化交流と摩擦』(第一書房)、『米中教育交流の軌跡』(霞山会)、『近代日本のアジア教育認識』全22巻(龍渓書舎)、『中国近現代教育文献資料集』全13巻(日本図書センター)、『21世紀の社会認識教育に向けて』(春風社)ほか。
1 ネオトニーの克服こそ大人への第一歩!

ここ十数年来の学生気質の変化は顕著である。従来であれば、子ども扱いされることを嫌忌し、自律的な学生生活を送ることに喜びを感ずる学生が大半を占めていた。精神的にも知的にも、出来る限り早く大人へ成長すること、これが彼らの生き甲斐であったように思われる。昨今はどうであろうか。概して、未成熟な若者が大半を占めているように思われる。子ども扱いされることに抵抗を感じつつも、これに積極的に反撥するわけでもなく、自ら人生の目標を設定し、これの達成のためにコツコツと努力を積み重ね、他者と切磋琢磨してゆく姿は見られなくなった。何事も他人任せであり、決断を求められる時でさえ、他者の意見や周りの動向に左右されがちである。これとは逆に、他者との関係を自ら断ち切り「おたく」に籠る学生も少なくない。もとより、こうした傾向は本学の学生に見られる特異なそれではない。日本の学生の一般的傾向であり、高度情報化社会となった先進諸国の学生に共通する傾向でもあるようだ。アメリカ社会では早くから若者のこうした傾向に危惧を抱いていたようである。これをネオトニー(Neoteny)、すなわち「大人の幼児化」現象と命名、情報化社会の高度な発達に伴い、人格的成熟と肉体的成熟のギャップが大きくなってゆくことに起因するとして、学校が青少年の発達課題の達成に真剣に取り組むことを提唱している。これが契機となり、アメリカではハイスクール教育や大学における教養教育、一般教育のあり方が見直されることとなった。いずれも、人間形成を最優先した教育システムと内容を再構築することが目標であった。日本においてもすでに高校・大学改革が同様の方針に基づいて進展しているが、この試みにより「幼児化」傾向に焦燥感を抱いている若者を奮い立たせることができるのか、ネオトニーを克服するためのシステムとして機能するかどうか、これらをしっかりと見極めたいものである。

2 資格の取得は楽しからずや?

私は商学部の教員であるが、本来の任務は全学の学生を対象に、中等学校教員の免許状取得に必要不可欠な教職課程科目の単位を認定することである。しかしながら、教職課程担当教員の業務は多岐に亘る。単位の認定作業のみならず、教育実習の訪問指導、教員採用試験に関する情報収集と対策の立案、学校の抱える教育課題に対応できる技量と資質の育成などに及ぶ。しかしながら、こうした力量と資質を4年間で育成することは容易ではない。そのため、教職課程を含む4つの資格課程に配属されている教員は、授業以外に多くの時間を割いて相談会(オフィスアワー)、勉強会、研究会などを独自に開設する一方、附属高校やOB・OG教員の協力を得て、春季特別講座や秋季公開講座などを開講している。さらに本年度からは、大学の教育システムを一部改訂、他大学の通信教育部の協力を得て、4年間のうちに小学校教員の免許状が取得できるようになった。不十分ではあるが、資格課程も各学部と同様、教育環境の整備・拡充に努めている。

ところで、本学では毎年どれくらいの学生が資格課程を履修しているのであろうか。概数ではあるが、1年次生の場合500名前後、学年が進行するに伴い、その員数は減少し、卒業時に教員免許状や各種資格をもって大学を巣立つのは、およそ120名である。もとより資格課程履修者の目的は一つ、将来専門職員になること、いやそのはずである。しかしながら、現実はそうではないようだ。教員免許状や各種資格を取得すればそれでことたれりとする学生も少なくない。彼らはいわゆる資格マニアとでも言うべき存在であろうか。教職課程にとってはトラブルメーカーでもある。教育職員免許状更新制の導入が提案されて以来、当該校の出身者であっても容易に教育実習の場を提供しない学校が出始めている。免許状を取得しても、5年あるいは10年間、教壇に立つ機会を得なければ免許状は「失効」するといった風説が、各学校に慎重な態度を取らせているのであろう。学校側の慎重な対応は、真剣に教育実習に取り組もうとしない資格マニアの輩出を防ぐことにはなるが、真に教職の道を志す者にも、教育実習の場が提供されにくくなることもあろう。この免許状更新制の導入は教職課程にとって、いや日本の教育界にとっても「両刃の剣」である。

3 教養ゼミナールは自己開発のために!

2・3・4年次配当科目の一つに教養ゼミナールがある。私はこの科目を活用して、ここ数年来教職を目指している学生を対象に、ジョン=デューイの教育論を講じている。戦後教育改革時に導入された社会科の性格をしっかりと理解させることが目的である。ゼミナールでは英語文献を輪読する形式を取り入れているが、脱落する履修者はほとんどいない。彼らのなかには、プラグマティズム教育学に深く興味関心を抱き、教育系の大学院に進学して、本格的に社会科教育学を学ぼうとする者も現れてくる。しかも、それを希望する履修者が毎年漸増するから不思議である。全く予期せぬことであった。志を同じくする者が一堂に会すると、相互に啓発しあう現象が知らず知らずのうちに生起するのであろう。教養ゼミナールを開講した甲斐があったというものである。最後になったが、大学院修了後の彼らは、プライドをもって教職の道を歩みはじめていることを付言しておきたい。