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109号

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109号 会報「育友」
シリーズ 知的好奇心いろいろ
家事と社会 家事は主婦の仕事?
文学部准教授 樋口 博美
専門は社会学。研究テーマは地場産業内における職業労働と技能に関する社会学的研究。著作は『キャリアの社会学』第1章「一品生産型職場の仕事とキャリア形成」(ミネルヴァ書房:H19年)など。担当科目は社会調査論・実習、生活構造論、生活論など。
「家事」と聞くと何を連想されるでしょうか。料理、洗濯、掃除、家族の世話?では誰がやるもの?これ、最近は男性やるもの、と思った方もいるかもしれません。でもやはり、多くの人は、女性が妻・母親・主婦として家庭内でするものとしてイメージされるのではないでしょうか。そして、そのイメージは、実は近代社会以降形成されてきたものなのですが、ここではどのように女性の仕事と認識されていくのかを社会の変化との関係で考えてみようと思います。

1.家事とは「家の事」

社会の歴史を簡単に区切ることはできませんが、いわゆる近代資本主義に基づく社会以前、家族は共同で農作業やその他の生産に従事し、自給自足の生活を営む生産共同体でした。たとえば、農産物が私たちの口に入るまでの収穫・貯蔵・加工・調理などの過程を考えてみます。かつては自分たちで米や味噌や野菜等を作り、収穫から調理まで行っていましたから生産と消費は家の中という同じ場所で行われていましたし、このようなすべての作業を家族全員が共同で行わなければ生活を維持することはできませんでした。そのとき、子どもも重要な労働力でした。実は子どもを生む大きな意味はそこにあったのです。「家事」とは、子どもを含む家族みんなで行う「家の事」すべてであったといえます。

2.産業構造の変化と外部化する家事

では、なぜ家事が女性の仕事になっていくのか。ここで重要なのは、農家や自営業としてすべて自分たちで行っていた生活から、会社や工場に雇われて働く労働者(サラリーマン)が金銭的報酬である給料を受け取り、それによって生活する社会へと変化したことです。このことにより家の中で家族の仕事としてやっていたことがどんどん外に任されるようになります(外部化)。たとえば、先に述べた「食」について考えてみます。現在、食材は生鮮食品店で購入する、また既に調理済みのものを購入して食すのが当たり前です。お金を支払えば大概のことは外でやってもらえるようになります。調理済みのものを買ってきた場合、空になった容器を分別して捨てることだけが家の中でやることとなり、これだけが「家事」になります。家事はお金の支払われない家庭内に残された活動のことを指すようになるのです。こうして衣、食、住のさまざまなことに関する外部化が進み、家庭の中は次第に消費と、さらにもう一つ重要な子育てとに機能を縮小していきます。

3.妻・母としての家事・子育て責任

近代以前は子育てに対する親の責任は今ほど大きくはなく、子どもは地域の中でしつけられ、育てられました。しかし、子どもは特別な存在であり、大事に育てなくてはならないという近代以降の「子ども中心主義」の考え方によって、子育ては家族が責任をもって担うものと新たに認識されるようになります。そのとき、外で生活のための賃金を得る男性に対し、女性は家庭の中にとどまり、外部化されずに家の中に残された家事をこなし、家庭の中心となった子どもたちを産み、守り育てることを自らの使命とする妻=母という存在として認識されるようになります。「女性は家事・育児を第一の仕事にすべきであり、家庭を守るべきである」という考え方の確立は、近代以降、特に強調されるようになり、そのような考え方が社会に浸透するにつれ、女性はますます自ら主婦を選択するようになったのです。男性の稼ぎ手と女性の主婦とその子どもからなる家族の登場でした。

こうして、社会との関係の中で「家事」は、近代以前の「皆でする家の事」から「主婦が無償で行う家の中の事」へと変化したのです。お金の支払われない仕事という意味では、昔も今も変わらないのですが、担い手とその期待される内容が大きく変化したといえるでしょう。そこに女性の存在とその責任が強調されるようになったのです。