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109号 会報「育友」
キャンパス通信
シリーズ 知の宝庫 図書館から 第1回
大学生活と図書館
図書館長 大庭健(文学部教授)
図書館長 大庭健(文学部教授)
研究テーマは分析哲学、倫理学・システム論/自己組織システムとしての心理、社会における規範の生成。著書は『所有という神話――市場経済の倫理学』(岩波書店:H16年)、『責任ってなに?』(講談社 現代新書:H18年)、『善と悪』(岩波新書:H18年)ほか。担当科目は、倫理学概論、倫理の哲学など。
知の遺産を整備した図書館は、大学の生命線です。
図書館が大学にとってどれほど重要であるかということは、一般にはあまりよく認識されてはおりません。したがって、「図書館は大学の生命線だ」と申しますと、なにかしら大げさに響くかもしれません。しかし、図書館は、文字通り大学の生命線なのです。と申しますのも、大学において、専門的な研究が積み重ねられ、そうした研究成果を踏まえてきちんとした教育がなされるためには、これまでの先人たちの貴重な知の遺産が、系統的に継承されていなければならないからです。

どの分野の研究においても、斬新なアイディアが、無から湧出することはありません。先人たちの研究を継承し咀嚼していく中ではじめて、斬新なアイディアも生まれてきますし、またそのアイディアが具体的な研究へと結実していく過程においても、先人たちの遺産が大きな役割を果たします。このように大学で研究が進められ、確かな内実をもった教育がなされるためには、これまでの知の遺産を系統的に整備する図書館が不可欠なのです。
読書とは、単なる情報収集ではありません。
たとえば天気予報や乗り換え案内のように、ごく限定された情報を入手しようというのであれば、わざわざ図書館に足を運ぶ必要はありません。むしろ、インターネットで検索するほうが合理的です。しかし、ものごとに感動する心を繊細に育て、ものごとについて系統だって考える力を養うためには、本は欠かせません。本を読むという過程は、あるいは書いた人の心の動きを追体験する経験であり、あるいは書いた人の思考の動きを自らたどり直す行為です。

したがって読書は、ときには努力を必要とします。とりわけ、専門的な事柄が系統的に書かれている本を読むときには、しばしばつっかえて、辞書や事典を引いたり、前のほうを読み返したりすることが必要になります。しかし、そのようにして他人の思考の跡を自分でたどっていけるようになる、ということが、すなわち自分で考える力が身に付くということなのです。
図書館を使わない学生生活は、ネタのない寿司のようなものです。
育友会の援助により購入されている文庫
育友会の援助により購入されている文庫
このように大学図書館は、先生方の研究にとっても、学生諸君の勉学にとっても、その死命を制する重要な役割を果たしています。本学の図書館も、諸人文科学から自然科学にいたるまで、約150万冊の蔵書を有しており、学生諸君は、その中から(ごく一部の貴重図書などは別として)自由に、一回に10冊まで借り出すことができます。これは、普通の市民生活では考えられないような権利です。この権利を活用しない手はありません。

開館時間も、平日は生田では夜9時まで(土曜は7時)、神田は平日も土曜も夜10時までとなっており、授業が終わった後でも、ゆっくり本を探したり、読んだりすることができます。また、図書館のカウンターには、本の探し方などについて具体的に助言してくれる専門の図書館員が常駐しており、本や資料についてのあらゆる質問に答えてくれます。こうしたサービスを活用することによって、知の遺産への接し方は、より豊かになっていくでしょう。

たしかに、図書館をまったく使わなくても、及第点をもらえる試験答案は書けるでしょうし、したがって無事卒業もできるでしょう。しかし、それだけであるならば、ネタのない寿司を食べたのと変わりません。なるほど、一応のカロリーだけは摂取できたかもしれません。しかし、それだけでは、若いときの精神的な成長にとって一番大切な栄養はとれません。
本になじむことによって、情報の質・精度を見極める目が養われます。
図書館に実際に足を運び、お目当ての本を探す。そして、お目当ての本を見つけたら、その隣近所に並んでいる本も手にとってパラパラ読み比べてみる。こうしたプロセスを経ることによって、はじめて自分にとって本当に必要な本を探していく力が身に付いていくのです。

そして、自分にとって本当に必要な本を嗅ぎ当て・見分けていく力は、現代社会で生き抜いていくためにきわめて大切です。現代では、ありとあらゆる情報が氾濫しています。そうした中で、本当に必要で信頼できる情報を見分けていく力が身に付いていなければ、とんでもない情報に踊らされることになりかねません。大学の4年間で、心と頭脳が本当に育つためには、図書館に足を運んで、本のたたずまいに接し、人類の知の遺産に触れることが、計り知れない大きな栄養となります。

もし、皆さまのご子弟が、あまり図書館を利用しておられないとしたら、それは非常にもったいないことです。お子さまとの会話の中で、図書館をどう利用しているかということも話題にしてくださることをお勧めいたします。
育友会を通じ、図書館をご支援いただき、ありがとうございます。
ご負担をお願いしているうえに、育友会を通じて図書館にも多大のご支援いただき、心から御礼申し上げます。おかげさまで、「育友文庫」をはじめとして、学生諸君にとって親しみやすい本を多数そろえることができました。こうした図書は、とりわけ、これまで本に親しむ機会の少なかったタイプの学生にとって、大変身近な読書の機会を与えてくれております。

もし、大学近辺においでの折がございましたら、ぜひご子弟とご一緒に図書館をご散策ください。図書館には、フランス革命のときの生の資料が集まった『ベルンシュタイン文庫』や旧満州関係の資料などをはじめ、他大学がうらやむ貴重図書も備えておりますし、軽い週刊誌や、映画・アニメのDVDなども多数取り揃えております。ご子弟とともに、図書館を散策していただきながら、ご子弟の日頃の学びなどについて、ゆっくりとお話いただけるなら、図書館としても非常にありがたいことですので、ぜひ一度、足をお運びくださるようお願い申し上げます。

「知の宝庫 図書館から」は4回にわたり連載いたします。