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107号 会報「育友」
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父母の著書を読んで
あの戦争を伝えたい
本年6月に育友会員で東京新聞の現論説委員(一面コラム「筆洗」担当)の菅沼堅吾さんから一冊の本が寄贈され、現在、生田図書館本館の書架に並んでいます。本のタイトルは菅沼さんが社会部長時に責任編集した東京新聞社会部編『あの戦争を伝えたい』(岩波書店、2006年)です。折角の機会ですので、この本をとおして会員、学生、大学の三者相互によきメッセージを送り合う場にしたいと考え、菅沼さん、学生の森さん、金城さん、そして古川教授からご寄稿いただきました。戦争の記憶を風化させず、世代を超えて伝え続けることの大事さについて考えてみたいと思います。
『あの戦争を伝えたい』発刊に際して

千葉西支部 菅沼 堅吾
千葉西支部
菅沼 堅吾
『あの戦争を伝えたい』(東京新聞社会部編、岩波書店)は戦後60年の昨年、東京新聞に通年で連載された「記憶〜新聞記者が受け継ぐ戦争」の企画を本にまとめたものです。世代を超えて読まれることを目指していますが、やはり戦争を知らない世代、特に若者に読んでもらいたいと願っています。『育友』で紹介できる機会をいただき、感謝しています。

実はこの本自体、20代の記者が3年前の夏から取り組んでいる企画の延長線上にあります。当時、戦争体験者への取材経験が若い記者にあまりないことを知りました。これでは報道する側が、戦争の風化を後押ししているようなものです。

8月の終戦記念日の前後だけでも毎年、20代の記者が交代で戦争体験者の記憶を受け継ぐ企画を連載しよう。社会部内で話し合い、こんな結論になりました。読者からの反響は予想以上に大きく、若い記者には励みになったようです。

戦後60年の節目の年には記者の「年齢制限」をやめて、部員全員で取り組むことにしました。1955年生まれの私が最年長という社会部の年齢構成です。20代の記者にあれこれ言うほど、みんな戦争を知らないと反省したからです。今取材しないと直接話を聞ける機会を永遠に失ってしまう。こんな焦燥感もありました。

17人の部員が自分が知りたい戦争について取材しました。当然ながらテーマは東京大空襲、戦艦大和、沖縄戦、原爆投下、回天特攻、中国や韓国での加害、シベリア抑留、BC級戦犯、満州棄民、キリスト教徒弾圧、米兵になった日系二世などと多岐にわたりました。取材上の原則は無名の庶民にとっての戦争を伝えることです。無名の庶民の戦争は、戦死者数などの数字に置き換えられかねません。それでは「戦争とは何か」が人々の心に届くことはないでしょう。

取材には戦争体験者の記憶を自分の心に刻み込む決意で臨むことも確認しました。加害など戦争の生々しい体験を聞き出すことは簡単ではありません。「受け継ぐ」という強い気持ちがあって初めて、「話したくない」という心の壁を突破できるのです。

加害、被害の両面を含め、戦争の全体像を浮かび上がらせることができたのでは、と思っています。過去と向き合うことで今を、そして未来をどうすべきかしっかり考えてほしい。これが編者の願いです。今の日本は再び戦争に向かって歩んでいないか。戦争体験者の憂いの声が私たちの元に届いています。

在学生の感想文を読ませてもらいました。いずれも編者の想定を超える深い考察です。「願いはかなう」という希望を持つことができました。森敦さんは今も戦争中とは異なる「貧困さ」と「不自由さ」が社会にあることを指摘。「豊かな」「自由な」社会を築く決意を述べています。そのことが平和な社会を、世界を築くことにつながると分かっているのでしょう。

金城芽里さんは沖縄出身ですが、沖縄でも戦争は風化しているようです。伝えていくことより人の記憶の薄れがいかに早いかを実感しているのです。それでも「自分には関係ない」と考えず、戦争体験者の「想い」を次の世代に伝えていこうと呼びかけています。

専大に今春入学した二男に本を渡しました。読み終わった時、何を考えたか聞きたいと思っています。未来を切り開くのは若者です。その若者に自分たちの体験を伝えるのは年長者の役割です。過去の教訓を生かせず、同じ過ちを繰り返すことほど愚かなことはありません。(了)